深刻化する地球温暖化問題、達成が危ぶまれる持続可能な開発目標(SDGs)、コロナ感染危機によってあぶり出されたデジタル化・医療制度改革の遅れなど、内外の環境・社会課題は山積となっている。こうした課題の解決に向けて、政府・自治体・国際機関による公的資金に依存した対応には明らかな限界があり、民間資金による投融資が不可欠である。このためには、金融機関が企業活動のもたらす環境・社会への変化(以下「インパクト」という)に着目し、投融資先である企業の生み出すネガティブインパクトを削減することおよびポジティブなインパクトを創出する双方の活動が求められている。
このため、環境・社会課題解決に取り組んでいる企業の活動のインパクトを可視化しながら、企業が生み出す追加性のあるインパクトが持続するように投融資による支援をすること、あるいは、革新的な技術開発やビジネスモデルを伴う事業にリスクマネーを供給することなどを通じて、積極的に課題解決を目指す企業へ民間の投融資資金を振り向けることが不可欠となっている。企業のこうした事業活動によってもたらされるインパクトは、当該事業の持続可能性を高め長期的な企業価値の向上にも資するものであって、収益力の向上とも両立しうる。但し、その両立や持続可能性を維持することは必ずしも簡単ではなく、その実現のためには企業側の堅牢で実効性の高いビジネスモデルの構築と、金融機関側の高い事業性評価能力、対話能力、商品組成能力が不可欠である。その意味で、かかる課題解決型事業の推進に向けた資金循環を作りだすためには、企業と金融機関による共創的な取り組みが不可欠である。
こうした我が国社会の要請に対応して、各金融機関は自らの存続にかかる持続可能性を問うたうえでその存在目的を再認識もしくは見直ししたうえで、経営者の意図として、その組織において包括的にインパクトをとらえて環境・社会課題解決に導くという考え方(以下「インパクト志向」という)を持つこと、もしくはこれまで以上に高めていくことが求められている。同時に、インパクトのある企業に民間資金を動員するためには、対象となる投融資が生み出すインパクトの測定・マネジメント(Impact Measurement and Management、以下「IMM」)を通じて創出されるインパクトに関する情報の適切な可視化とマネジメントを伴うインパクト志向の投融資を提供する必要がある。インパクト志向の投融資の実践において、IMMの在り方については、これを担う金融機関の属性や企業側の制約に応じて、適切かつ現実的に考える必要があり、今後はIMMの実践が不可欠である。また、インパクト志向の投融資は既に海外市場でより高い水準で実践されており、海外から既に多額の資金を取り入れている我が国としては、国際的に開発され進化をとげている原則・基準を準拠もしくは参照しながら、海外の推進機関・団体とも密接に連携・協力して、インパクト志向の投融資の推進活動を進める必要がある。
金融機関のインパクト志向の追求とIMMの実践に向けた取り組みは、我が国の金融業界が必要とする重要な変革作業であり、各金融機関の経営者のリーダーシップが不可欠である。金融機関が扱う資金の流れを可能な限りインパクト志向へと変革させ、環境・社会課題を自律的に解決しうる持続的な資金循環を生みだすことが必要であることから、自らの組織のみならず署名機関で横断的に以下の行動を実践する。
1. 金融機関が社会から期待されている役割を果たすためには、その経営においてインパクト志向を持つことの重要性を理解しており、インパクト志向の投融資(注1)を各参加金融機関において実践するように取り組んでいく。
2. 金融機関がその投融資活動を通じて生み出すインパクトを可視化し、投資戦略や投資判断に活用しインパクト創出に向けた努力を継続することが必要であると考えており、IMM(注2)を伴う投融資活動や金融商品の提供を推進する。
3. 以上の取り組みに関して、それぞれの組織の状況に応じて自らの計画を策定したうえで、実践されたベストプラクティスや推進上の課題を署名者間で共有・議論することを通じて、この活動が持続的に発展できるように運営していく。
4. IMMの質の向上やインパクト志向の投融資の量的拡大に向けて、署名金融機関のワーキングレベルで、意見・情報交換および必要な調査研究など、協調的な活動を行っていく。
5. 本宣言に参加していない金融機関を含む我が国の金融業界全般にインパクト志向の金融機関経営の在り方やIMMの取り組みが波及していくように協調して活動を行う。
6. 海外で取り組まれているインパクト志向の投融資やIMMの推進にかかるイニシアティブに意欲的に参加し、国際的なインパクト志向の投融資の推進に貢献するとともに、我が国からの発信を積極的に行っていく。
7. この活動を、我が国金融業界が、自律的にインパクト志向の投融資を持続的に発展させることができるようになるまで継続する。
注1. ここで言う「インパクト志向の投融資」とは、GSG国内諮問委員会の定義する「インパクト投資」と同義である。融資・債券・上場株式・未公開株式などあらゆる金融形態を含む。
注2. 「インパクトの測定・マネジメント(IMM)」とは、金融機関がその投融資活動を通じて生み出すインパクトを測定して可視化するとともに、戦略の策定や投資先とのエンゲージメントを通じて創出されるインパクトを管理することを言う。
インパクト志向金融宣言本文
署名機関一覧 (2024年11月1日時点)
過去のお知らせをもっとみる